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「輪るピングドラム」9話以降、村上春樹著「アンダーグラウンド」が取り沙汰されている。
今日はオウム真理教の起こした地下鉄サリン事件についての村上春樹の著書2点について記事を書く。

アンダーグラウンド (講談社文庫)アンダーグラウンド (講談社文庫)
(1999/02/03)
村上 春樹

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約束された場所で―underground 2 (文春文庫)約束された場所で―underground 2 (文春文庫)
(2001/07)
村上 春樹

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この世に生まれ落ちた時から運命を憎み、生きる苦しみを背負いながら、それでも生きていこうと仏教に傾倒し、宗教団体に所属する人間(それは同情を禁じ得ないような人生の人間もやはり少なからず存在する)。

一方で、平凡な、或いは苦渋に満ちた人生であっても、その運命を受け入れ、一般的な生活をしている人間。

95年3月20日月曜日、その両者の運命が交差する。

運命を憎んでいた人間が、ある人間の運命を、憎むべきものへと変えてしまう。
これは、なんという負の連鎖なんだろうか。

「それ以来地下鉄に乗るのが怖いとか、そういうのはありません。嫌な夢も見ません。あるいは私が無とんちゃくだからなのかもしれませんがね。しかし運命というのはたしかに感じます。たとえば私は普段、三両目のいちばん前の扉からは乗らないんです。常に二番目の扉から乗るんです。そしたら私はたぶんサリンの風下に座っていたでしょう。でもその日だけはたまたまいちばん前の扉から乗った。とくに理由もないんです。たまたまというだけのことです。」
『アンダーグラウンド』 p.179 被害者:稲川宗一



「もともと持って生まれた才能とか、家柄とか、頭のいい人間はどう転んでも頭がいいし、足の速い人間はどう転んでも足が速いとか。それで弱者と呼ばれる人たちはどこまで行っても日の目を見ないんだと。そういう運命的なものってありますよね。それじゃあまりにも不公平じゃないかと、僕は思っていたんです。 」
『約束された場所で』 p.181 元オウム真理教信者:細井真一



前者の、被害者:稲川宗一さんは、偶然にその日は風上に立っていたから、最悪の事態は逃れることが出来た。
でも、その代わりにその場所に立っていたり、座っていた人が、命を落としている。
そこに座っていなかったら、その電車に乗っていなかったら。そういった運命的な分岐点が、この晴れた月曜の朝にはあったのだ。

後者の、元信者:細井真一さんは、自身の兄が身体障害者として生まれ、小学生の頃からそのことで自身もクラスメイトたちにからかわれていた。その兄も、14歳で亡くなってしまう。幼かった頃の細井真一さんは、弱者には必ず救いがある、いつか幸せが訪れると信じていたが、それが打ち砕かれてしまった。この世なんて苦しいことばかりなのだと。
この細井さんは、事件には関わっていないし、ただ「オウム真理教」に所属していた元信者であるが、オウム真理教に所属する人間のなかには、このように運命を憎んでいたり、現世で他者と馴染めないと感じている人間が、多く所属していたようだ。

本を読めばわかるが、オウム真理教では現世の苦しみや悲しみは全て前世での悪行なのだ、という教えがある。
そう考えれば苦しいことにも耐えていけるから、それを受け入れて修行をする。

例えば美輪明宏なんかが言っている「正負の法則」だとかは、「自分が生まれてから死ぬまでの間を±0だと思って生きていけ」っていう教えなんだけど、オウムで「カルマの法則」と呼ばれている前出の教えは、その±が前世や来世まで飛躍してしまうのだ。
あまりにも大きな苦しみを抱えた人にとっては、そうでも思わないとやっていけないんだろう。それは、本を読んで痛切に伝わってきたし、正直なところ同情してしまった。「前世」という、空想でしか分からない部分に自らの痛みを投げ出すことで、現世の痛みとの差分を埋めようとしてもがいているのだ。
私も同じような人生だったら、そういった宗教的なものに精神の救済を求めていた可能性は十二分にあったかも知れないと感じる。

村上春樹の著書「雑文集」の中に「東京の地下のブラックマジック」というタイトルで、オウム真理教についての言及がなされているのだが、この中で村上は「オウム真理教元信者に、『思春期の頃熱心に読書をしたか』という質問をしたら、答えは全てノーだった」と述べているのだが、これは良い質問だと思う。
「アンダーグラウンド」の中でも実際に、「思春期に苦しい時は読書に熱中したりとかが普通だと思うんだけど、なんで仏教に行ったんだろう?」みたいなことを元信者に質問していた。
これは、思春期を読書で乗り越えた人間としては非常に興味深い質問で、自分自身、読書が無かったら果たして何に逃避していたんだろうと考えてしまう。

「約束された場所で」の中で村上がインタビューしているのはあくまで元信者に過ぎないし、サリン事件には直接関わっていない。でも、オウム真理教団体がどのような人間の集まりで、どのような組織だったのか、という事実を紐解く上では重要な作品になることは間違いないだろう。
傷付いた「いいひと」たち(村上の受けた「印象」だ)の集まりであるオウム真理教と、事件を起したオウム真理教は全くの別物に見える。切り離して考えたくなる。しかし、間違いなく同じ一つの団体であるのだ。

ピングドラムがこの事件を示唆したまま進み、結果どのように着地するのか、それはまだ分からない。
そもそもそれをオリジナルアニメという「フィクション」を通してどのように描いていくつもりなのか分からない。それを意味のあるものに出来るのだとしたら、私は本当に凄いと思うのだけど、今は黙ってピングドラムを見ていくしかない。
何故「凄い」のかというと、この事件は実際に起こったことで、だけどアニメはフィクションだから、そこには実体験と想像の深い溝があるからだ。体験者と非体験者の深い溝があって、それはとてもデリケートな問題に思える。
それを超えるようなものを作ったら凄いと思う、という、そういう意味での「凄い」だ。

ピングドラムは「黙って、メッセージや記号を捕捉するしかない」と思いながら見ている。

村上春樹の著書がたくさん出てきて、それぞれの著書の一部分、一部分がピングドラムとリンクしているような気がしたり、たまたまな気もしたり。
例えば「スプートニクの恋人」では「記号と象徴の違い」なんて話があったりして。
「ねじまき鳥~」や「世界の終わり~」の影響なんかも認識しつつ、話がどんどん進んでいくから、ピングドラムを充分に理解するのはすごく難しいだろうなと思っています。

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この記事へのコメント
はじめまして。
ピングドラムの考察、いつも興味深く拝見しています。

『アンダーグラウンド』の抜粋を読んでふと思い出したのですが、苹果ちゃんに出会った車両は「前から3両目、2番目のドア」なんですよね、、
  1. 2011/09/26(Mon) 21:26:47
  2. URL
  3. tetsu_hm #-
  4. [ 編集]
コメントありがとうございます
tetsu_hmさん、コメントありがとうございます。
勿体無いお言葉、大変光栄に存じます。

苹果ちゃんと出会った車両が、サリン事件のあった車両と一致している件ですが、tetsu_hmさんからのコメントで初めて気付きました。お恥ずかしい限りです。
コメントを頂いてすぐに2話を見返し、再び「アンダーグラウンド」を開きました。
確かに間違いなく同じ車両、同じような時間に二つの出来事が重なっていますね。
tetsu_hmさんはよくお気付きになられましたね!大変驚きました。
実際に事件のあった電車とは逆方面ですが、既に2話の時点から事件を示唆していたのですね…

私の気付かなかったことを教えて頂きましてありがとうございます。
次回以降の記事にでも、tetsu_hmさんから教えて頂いたことを明記した上で引用させて頂くかも知れません。
また気付いたことなどございましたら是非教えて下さい。
貴重な情報を本当にありがとうございましたm(_ _)m
  1. 2011/09/26(Mon) 22:47:45
  2. URL
  3. ミカ(管理人) #ICazf28Y
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