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介護入門 (文春文庫)介護入門 (文春文庫)
(2007/09/04)
モブ・ノリオ

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感想:★★★★★

私なんぞがこんなこと言うのは憚られますが、
文句無しの文學界新人賞&芥川賞ではないでしょうか。

モブ・ノリオ氏の、介護するということに対する情念、
周りの大人、親戚たちに対する情念、そのほかあらゆる、身の回りの身近なものへの情念が、
本人の中で鬱積して、それが文字となって爆発した、
或いは文字にぶつかって溢れ出したという印象を受けました。

介護入門 一、《誠意ある介護の妨げとなる肉親にすら、如何なる厚意も期待するべからず。仮にそのような肉親が自ら名乗り出て介護に当たる場合は、赤の他人による杜撰さを想定し、予め警戒の目を光らせよ。続柄意識だけが義務感となって彼等を緩慢に動かすに過ぎない。被介護者とともに生き、ともに死ぬ覚悟なき義務感など、被介護者を必ずや不快にさせると思え。責任感は気高く、義務感は卑しい。彼等の汗を目にした時に限り、警戒を緩めるべし。》(p.50)


そしてその勢いは止まることなく、後半になるにつれ怒涛のようにその言葉達が雪崩れ込んできます。

YO、朋輩、言葉は人間の糞だ、何を食べたか、どんな生活をしたかで糞は変わる。(p.60)


血の濃さなんか介護には糞の役にも立たぬのだよ、朋輩、ケツを拭くときのぬるま湯以下だ。他の誰かが作った物語のほとんどが自分にとってゴミ以下なのとおんなじことだ。「そんな君の物語など君固有の幻想ではないか?」などとほざく奴には、それだけが現実だと教えてやろう、「二流の書物とセックスして死ね」だ、頭悪男くん。書物がすべて人間の脳から出たこと、頭悪男の脳も新たな書物を発明しうることを俺は介護の現場から学んだ。俺自身が新しい書物になったからだ――無論、俺にとって新しい、という意味でだがな。介護の現場に於いても誰かの脳から脳へと複製を重ねられてきた《血の優位》を説く者があるなら、俺の身体が受けた情報を記憶する俺の脳から、《記憶の優位》を証明する俺の言葉が、この時間、この場所から、だから変な義務感ばかりで碌に介護もできない大人たちを作ると言い放つ。
物事はそんなに単純じゃなく、《血の優位》も《記憶の優位》も物語として備えた上で介護に当たる人がほとんどだ、そして記憶といっても家族との想い出のすべてがいい記憶なわけがないし、その介護が必要な家族に対して思い出したくもない恨みのある奴がなんとか家族に尽くしたいと悩みながら努力する場合もある、だがな、それが記憶だ、それこそが記憶の起こしめた力だ、その中に被介護者との続柄や血の距離のみを根拠とした自らの優越性が混じったなら、それは血や続柄制度の物語に縋る堕落の始まりだ。(p.64)


この本では、親戚の心無い一言や、逆に温かい出来事などについて、少しだけ過剰かも知れないと思うほど克明に描かれている。その時の介護する側の人間の気持ちが、文字の上で爆発している感じで、上の引用からも読み取れるように、怒涛のようにその様が書き綴られている。
でも、何故そこまでこの男は介護に全身全霊をかけているのか?
それは、つまりこういうことだ。

知らず知らずのうちに、ばあちゃんの世話だけを己の杖にして、そこにしがみつくことで生きてきていた。それ以外の時間、俺は疲弊した俺の脱け殻を持て余して死んでいる。(p.112)


つまり、本人が介護することによって生かされているのだ、それがこの本に溢れ出す文字の爆発の正体だ。
介護することはそのまま自身を救済するかのような行為なのだと本人が自覚しているわけだ。

「心の叫び」と一言で言ってしまうとシンプルすぎるが、この本には心の叫びが痛々しいほどに記されている。
文学作品として上手く書こうだとか、こういうメッセージを発信しようとかそういったものとは全く違う、
どうしようもなく出てきてしまった心の底の塊がそのまま文字として具現化されたかのような印象を受ける。
心からの叫び。
だから、ものすごく伝わるものがある。
本人が大麻中毒だろうが無職だろうが、介護する中でのその心の叫びは本物であり、
その本人の衝動が文字から溢れ出しているので、読むものを圧倒するパワーがある。
そのパワーに、私は震えた。
どれだけの日数をかけて書いたのか知らないけど、バーッと一気に書き上げたかのような印象を受ける。
そういうパワーとスピード感が溢れている。

だからと言って、これしか書けないというわけではなく、根っこに自身の哲学や文学への愛情があると、この作品から感じたから、他にもいい作品を書きそうなものなのに、他に単行本化されてるものが無くて残念です。

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